2012年1月21日土曜日

兄とその妹


昭和14年 監督島津保次郎 松竹大船
古き良き時代の松竹大船の大御所監督の作品でした。この作品は前作「隣の八重ちゃん」に次ぐホームドラマの礎を築いた記念碑的作品と云われました。そして昭和14年の作品としては古さを感じさせないきわめてモダンな映画という感じでした。妹の桑野通子が通勤のコートがものすごく現代風でカラフルなデザインで、また朝の食卓は今と変わらないパンと紅茶とバターでした。中流な平凡の家庭の話で、佐分利信の間宮敬介はちょつとした会社のサラリーマンで東京の都心にある会社に妹と通勤している。妹は英語が出来て社長秘書ですらすらと英文タイプを打てる才女なのでした。妻のあき子がまたまた控えめな奥さんで午前様の夫を寝ないで待つ献身的な美人妻でした。夫は会社の重役との囲碁の相手で同僚たちから卑怯な奴だと妬み中傷されるようになる。そんな中重役から妹の縁談を持ち出され話がややこしくなる。敬介いいい縁談と思い、妹のうれしく思っているのだがこの事から兄が逆に自分の縁談のことで兄が痛くもない胆を探られてしまうのでないかと気遣ってきっぱりと断るのでした。兄のために妹が自分の申し分のない縁談をことわるといううのはちょつと封建的な自己犠牲のようであるが家庭の名誉のために家庭が団結するのはやはり美しいことでした。妹の純真な愛情が兄の生きる支えになるという文化伝統が日本にあることが指摘されている。そういえば出勤の忙しい朝妹は自分の出勤の出かけに兄の靴を磨いて行く場面があり妹の兄想いが見事に描かれていました。

2012年1月15日日曜日

暖流


戦前(昭和14年)吉村公三郎監督でこの作品は作られました。私が今回観た「暖流」は新鋭監督の増村保造がメガホン撮った作品でした。戦前の作品ほど評価は高くないがこの作品も見ごたえある素晴らしい作品でした。戦前の作品はまだ観ていないので比較することは出来ませんが、セリフの回転が速くててきぱきとして画面にグイクイ引き込まれていく。特に石渡ぎん役の左幸子のセリフはすごくストレートで日疋祐三の根上淳に対する愛情表現もストレートで表現されついに日疋はぎんの積極性に負けてしまうのである。病院令嬢志摩啓子の野添ひとみも自由奔放であるがそれ以上のぎんでした。こんな積極的な女性は多分存在しないだろう。監督は極端に個性を強烈にヴィヴィドにデフォルト化しているが観る観客には強烈な印象を与えるものです。解説者の山本晋也氏の話によると増村監督はイタリヤに留学しているのでイタリヤ映画の自我の主張の強いところの影響をこの作品は受けていると解説してくれました。駅の改札口で大声で日疋i「二号でも妾でも良いから」と叫ぶシーンは正にイタリヤ風でした。私立病院の入り口の鉄門が開いて映画は始まりラストは二人で鉄門を閉じて出て行くところで終わる。なかなか粋なエンドでした。

2012年1月9日月曜日

関の弥太っぺ


股旅ものシリーズ作品の金字塔と云われている傑作作品。加藤泰監督の2作品も勿論素晴らしい作品でしたが僕はこの作品が一番好きだ。冒頭花を摘む少女お小夜が激流に流されて溺れるところを助けてやる心優しい弥太郎でした。10年前に生き別れた妹を身請けするために探していた道中での出来事でした。その少女を面倒みる羽目となり博打等で貯めた50両をその少女にくれてやり、亡くなったお母さんの実家沢井屋にお小夜を無事届けるのでした。一方やっと探し求めた妹はすでに死んでしまっており、お墓を立て只号泣するだけでした。そして10年後に縁あって命を助けた少女に一目会いたくて出かける。すっかり女らしく成長していた可愛い箱入り娘になっていました。弥太郎は村の鎮守祭りに落とした風車を手渡してやるのでした。あまりに荒んだ弥太郎の顔でしたので娘は助けてくれた人だとは思わなかった。しかし弥太郎には無くなった妹をだぶらせて只々お小夜が懐かしいのである。このシーンは特に素晴らしいし風車の小道具を使って、弥太郎の想いが風のごとく儚く流れ去っていくのをその風車に表現したのでした。子分箱田の森介の木村功がばくちに凝って娘の家に自分があの時のおじちゃんと云って娘の家に無心するのでした。それを知った弥太郎は見逃してやるからこの町ら出て行けと諭すが恋に狂ったのか娘さんが好きになったと云って云うことを聞かない。云っても駄目ならお前は男でないといって切り倒すのでした。そして裏庭の槿の花が一杯咲き乱れた庭で二人はお別れするのです。「この娑婆には悲しいこと、辛れえことがたくさんある。だが忘れるこった。忘れて日が暮れりゃ明日になる」その言葉でお小夜が最後にやっと記憶を手繰り寄せ、あの時助けてくれた人だと思い起こし後を追ったがもういない。決闘の場に進むところで映画は完の字でした。確か冒頭のシーンも槿(花言葉信念)の花で、最後も槿の花でした。山下監督はよく花を好んで用いる。この映画のラスト決斗に向かう場面に彼岸花(花言葉死人花)が咲いていた。そしてその後緋牡丹のお竜さんの名作を誕生させてくれるが、この作品が原点になっていると思われる。