2011年9月20日火曜日

泥の河


この年の映画賞をすべて総なめにした日本映画史上の渾身の1作品といわれる位のすばらしい作品でした。驚くことには小栗監督の最初の作品で最高の作品に仕上がっていることでした。小学校3年生の信雄はきっちゃんと銀子ちゃんと友達になりながら最後に別れが待っているのでした。子供達の友情が親のエゴにより切り離されるむなしさを大阪の溝川安治川の河口を舞台に叙情豊かに描いてくれました。この雰囲気はモノクロ映画でしか撮れないぐらい綺麗な映像でした。きっちゃんと銀子の家庭は船の上での生活で母親の加賀まり子は夫を戦争で無くし所謂廓船での娼婦でした。姉の銀子は母親の生活を健気に堪えて黙認しながら、優しく弟を気遣う母親の役を兼ねていました。戦争の影が濃く昭和の30年代の最低限の生活を強いられた家族に暖かい監督の目が注がれていて、決して落ち毀れていかない人間と子供たちの交流が見事でした。なんといってもこの作品の真の主役は三人の子供たちでした。信雄の家で風呂に入ったときに始めて見せる銀子の笑顔、姉弟の母の売春を目撃してしまう信雄の複雑な表情は真摯に胸をうつものでした。無言のまま橋の上で銀子とすれ違う信雄でした。銀子もなんとなく感じて黙ってしまう。翌日その廓船は信雄の前から消え入るように動き出しました。何度も何度も信雄は追いかけて「きっちゃん・きっちゃん」と叫ぶけど何の応答もなく無言で進んでいくだけでした。多分親子三人でじっと耐えていたのでしょう。喜一にはなぜ答えいけないのかわからないが銀子は少しわかっているのでした。こんな風にして子供たちは大人になっていくのでしょう。

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